早稲田大学における英語文学研究はシェイクスピアの戯曲をすべて邦訳したことで知られる坪内逍遙にはじまり、優に100年以上の歴史を持っています。
早稲田大学英文学会の前身は1930年には存在していたことが確認できますが、戦後、新制大学のもとで再発足しました。ある先輩によれば、この学会には、「文学をカビ臭い書斎にとどめ置かず、広く人生の諸相に結びつけてとらえる」草創期以来の精神が生きています。昔も今も文学学術院に所属する英語文学関係の教員や卒業生に翻訳家が多く、英語圏の文学・文化を一般読者に向けて紹介することをめざす研究者も少なくないのは、偶然とは思えません。
同じ先輩のことばを借りれば、1950年に刊行が始まった学会誌『英文学』創刊号の「表紙には坪内逍遙博士の横顔スケッチ画を配し、執筆陣に本間久雄、谷崎精二、尾島庄太郎、その他錚々たる面々を並べて華やかにスタート」しました。本間は英国耽美派文学の研究者であるとともに、明治文学を広く深く究めた人でもあります。谷崎はエドガー・アラン・ポーの翻訳で知られていますが、小説家でもありました。尾島は日本にアイルランド文学を紹介した先駆者で、比較文学的な視点を持つ叙事詩の研究もしました。それぞれに欲張りで、好奇心に富む探求者でした。想像力の胃袋が強くて食欲旺盛な気運は、今も変わらずわたしたちの学会周辺に漂っているようです。
本学会の機関誌である『英文学』はかつて年に複数回刊行されたこともありましたが、現在は年に一度の刊行となり、2023年度には第110号が刊行されます。また、毎年11月末頃には、教育・総合科学学術院の英語英文学会と合同で研究発表会を開催しており、英語文学・英語学・英語教育といった分野の大学院生や若い研究者が研鑽の成果を発表する場になっています。研究発表の後には外部から特別ゲストを招いて講演会が開催されます。
興味のある方はどうぞご参加下さい。
早稲田大学英文学会会長 栩木伸明